2002 7/17
挿絵 市川笙子さま

私の初恋 




フランス、私の故国。帰って来たんだわ。
あの方はいるかしら。あの時と同じ瞳をしているかしら。
私の事、覚えているかしら。

ベルサイユ宮の鏡の回廊。此処には私の知っている人はいない。
私は異邦人。故国に居ながらなんと落ち着かない。
「ほら、オスカル様よ」
声に驚き振り返る。
淡い紫のドレスを着た婦人が扇を口元にあて隣の婦人に囁きかけている。
私の胸に熱い期待がこみ上げてきた。
本当だろうか、本当にあの人だろうか。
柱の陰からそっと顔を出してみた。はっとする間もなくあわてて柱に身を隠す。
間違いないあの人だ。軍服を着ているがあのブロンドあの瞳、間違いはない。
でも、それ以上に私の目に涙を滲ませたのは、彼もいたという事。
オスカル様にはもしかしたら会えるかもしれないと思っていた。
でも、まさか彼に、彼に会えるとは思ってはいなかった。 
彼は髪を伸ばして一つに束ねていた。
懐かしい黒い瞳をきらめかせあの人と話しながら歩いていた。
あの人にぴったり寄り添い彼女しか見ていない様子で。
私は柱に身をもたせかけ体の奥から大きな息を吐いた。
もう会えないと思っていた。
私の記憶は遠く彼方に飛ぶ。
あの時の青い空、弾け飛ぶ笑い声、金色の髪、草いきれ、何もかもはっきりと思い浮かぶ。
優しい声、あたたかい手、しがみついた背中、黒い髪。
ここにいたらもう一度会えるかしら。
私は彼らが行った方に目をやった。
あの日に戻りたい。あの明るい光の中へ。
ここは、ベルサイユ宮殿は私には華やかで大きすぎる。 
彼が、戻ってきた。
私はその姿を目で追うことが精一杯で、声などとてもかけられない。
そうね、姿を見られただけでも充分だわ。
会えるなんて思ってもみなかったのですもの。


 私が兄のアルベールと一緒にジャルジェ家を訪れたのは六才の時だった。ベルサイユに来て間もない父にジャルジェ将軍が声をかけてくださったのだ。軍人でもない父に何故かはわからないが、将軍は気さくな方だったらしい。父はまだ若かった。きっとジャルジェ家にあまた訪れる客人の中に入れてもらったのだろう。その時父に小さな子供が二人いるということがわかると、夫人に今度は子供を連れて来るように誘われた。硬くなって固辞する父に夫人は笑って言った。
「どうぞ連れていらして。サロンといっても私のところは何もしないのよ。子供を遊ばせておしゃべりするだけ。奥様はつまらないかもしれないけれど、家にもちょうど同じ年頃の子供がいますのよ。どうぞお気軽にいらして」
 夫人の優しい誘いを父は感激して母に伝えた。でもその時母は別の婦人からジャルジェ家の様子を事細かに聞いてしまっていた。
「あそこの跡取息子のオスカル様はとても御気性が激しくて、ご自分の気に入らない事があると誰彼かまわず、たとえお客であろうと殴りつけるそうですわ」
「軍人の家ならそれもしょうがないのでしょうけれど、デュボア伯爵のジェラール様もモルグ子爵のエルヴェ様もそれはひどい目にあってしまわれたのですよ」
「アルベール様をそんな目に会わせたくなっかたら、悪い事はいいませんから、ジャルジェ家には行かない事ですわ」
 婦人と母の会話を聞いていたわけではなかった。ただ私はいつものように母に抱かれて眠りにつこうとしていた。そして眠ってしまうと父に抱かれてベッドまで運んでもらうのが常だった。父も母もいつまでもこんなみっともないことをしていてはいけないと思ってはいたらしい。私はもう六つだ。一人で子供部屋で充分寝られる年だ。声をひそめ深刻そうに話す父と母。なんの話かわからなかったが、うとうとしながら父と母の話を聞いていた。
「そんな気性の激しい方なんて。家の子はだめだわ。お行儀だって悪いし、わがままで泣き虫よ。とてもじゃないけど無理よ」
「でもせっかく夫人がお誘いくださったんだ」
「でもアルベールが… そんなひどい目にあったらと思うと… いったいいくつなのてす?その方は」
「アルベールといくつも違わない。たしか八歳と聞いた」
 私の大好きな兄の話だと思うと私の眠気は遠のいた。
「オスカル様」「ジャルジェ家」 言葉の端々からぼんやりとした様子はわかった。母は眠っていない私を強く抱きしめた。
「それにアンジェリーヌは女の子ですよ。そんなところに連れて行けないわ」
「わかった、一回だけだ。一回行ったら義理は済む。そうしよう、いいな。さ、アンジェリーヌをかしなさい、眠ったようだ」
 すっかり眠気は覚めていた。私は初めて眠らずにベッドに運ばれた。

 子供の目からも緊張が見て取れる母と、多分何も知らないであろう兄と、私はジャルジェ家なるものに足を踏み入れた。取り次いでもらうとすぐににこやかに笑った夫人が出てきた。
「まあ、ようこそいらしてくださいました。どうぞことらへ」
 ジャルジェ夫人の微笑みに母の緊張がわずかばかり解けたようだった。
「お招きありがとうございます。ヴィクトリーヌ・コリンヌ・ド・セシェルです。これが息子のアルベール、そして娘のアンジェリーヌです」
「まあ、なんて可愛らしい。家の子供達とちょうど同じ位だわ。ちょっと待ってね。オスカルはどこかしら」
 私は母を見上げた。母の手が私の手を強く握ったからだ。母の顔にさっと緊張が走る。
「オスカル」
 ジャルジェ夫人がもう一度呼びかけると開け放たれた扉の陰から一人の少年が顔を出した。金髪で蒼い瞳のきれいな少年だった。
「セシェル様、娘のオスカル・フランソワです」
  多分母は驚いた顔をしていただろう。
「初めまして。ヴィクトリーヌ・コリンヌ・ド・セシェルです」
 母は大人に挨拶するようにオスカルに挨拶した。
「オスカル・フランソワです」
 そっけない声だった。
「オスカル、アンドレは?」
 夫人はオスカルのうしろに何かを探すように目をやった。
「アンドレは今いません」
 冷たい蒼い目は怒ったような口ぶりだった。
「そう、いいわ。アンドレには後でご挨拶させましょう。オスカル、アルベールとアンジェリーヌですよ。お部屋へご案内して」
「あの、今日の他のお客様は?」
 不安そうに母が聞いた。
「今日は他には誰も。セシェル様だけですわ、どうぞお気楽になさって。あ、オスカル仲良くね」
 夫人の最後の言葉に母は絶望的な表情をした。

 オスカルについて部屋に入ると何人かの侍女の他に一人の少年がいた。
黒い髪に黒い目。年はアルベール兄さん位だろうか。
「彼はアンドレ」
 オスカルはやはりそっけなくそれだけ言った。しかし少年は人懐っこい瞳で私たちを見つめると右手を差し出した。
「アンドレ・グランディエです」 
「アルベール・ボリス・ド・セシェルです。こっちは妹のアンジェリーヌ」
 兄がアンドレの手を握る。アンドレは私の方にも手を差し伸べて柔らかく手を取ってくれた。首をわずかに傾けて、膝を折り、きちんと淑女として扱ってくれたようで私は嬉しかった。
 オスカルはそんな私たちのやり取りを胸の前で腕を組み子供らしからぬ態度で見つめていた。
「さあ、庭にでよう」
 オスカルはもうこの部屋に用は無いとでもいうように部屋を出ようとした。侍女が付き従おうとするのを制止する。
「ぼく達は子供だけで遊びたいんだ。付いてくるな」
 そして兄に小声で言った。
「御付きがいないと遊べないかい?」
「いいや」
 私達は子供だけで庭に出た。

 兄に手を握られながら私はアンドレを見た。さっき見たアンドレの黒い瞳。暖かくて優しい目だった。私は思わず前を行くアンドレの手をそっと握り締めた。びっくりした様にアンドレは私を見たがすぐに微笑むと私の手をしっかりと握ってくれた。
「アンドレは今いません」 オスカルの言葉の意味など知る由も無い。私は兄とアンドレに手を取られて明るい庭に出て行くだけで胸が躍った。一人息子だと思ったジャルジェ家にもう一人男の子がいたとか、オスカルと姓が違うとか、そんな事に気づく訳もなかった。 

「さあ、ぼく達を捕まえてごらん。君と妹でぼくかアンドレのどっちでもいいから捕まえてごらん。アンドレ逃げるんだ」
 噴水の所まで来るとオスカルは兄の肩を合図のようにたたき走り出した。噴水の周りを誘うように回り、いきなりの事に驚き戸惑っている兄に近づき噴水の水をかけた。
 まるで挑発されたように兄はオスカルめがけて走り出した。アンドレは逃げずに私の手を取ったまま立っている。それでも兄はオスカルを追った。
 兄は必死になってオスカルを追うがもう少しという所でつかまらない。兄が疲れて歩を緩めるとオスカルも止まる。そうして一定の距離を保ちながら相手の出方を待つ。オスカルの顔に笑みが浮かんだ。それも兄を挑発した。だが、どんなことをしてもオスカルはつかまらなかった。とうとう兄は噴水の横に寝転んでしまった。
「なんだ、もう終わりか」
 オスカルが兄の側に寄り顔を覗き込んだ。次の瞬間、兄の右手がオスカルの足首をつかんだ。
「卑怯だぞ」
 オスカルの叫びなど無視して起き上がるやいなや兄は駆け出した。噴水の周りなどではなく綺麗に刈り込まれた芝生の上を走った。オスカルも兄を追い、二人は遠く見えなくなった。
 アンドレに連れられて行くと、庭のはずれの木立の覆い茂った日陰の中に二人は折り重なるように倒れていた。兄はどうしてしまったんだろう。私は心配で兄の側にしゃがみ込んだ。
「オスカル、アンジェリーヌがいるんだから無理だ」
「わかった」
 アンドレの言葉にオスカルは起き上がった。さっきまでの挑戦的な様子とは裏腹にひどく素直な返事だった。
「オスカル、君は速いんだね。驚いたよ」
 兄も立ち上がった。息は上がっていたが晴れ晴れとした顔をしていた。
「ぼくもいきなり悪かった」
 別人のような表情でオスカルが言った。静かな寂しそうな声だった。

 四人で広い芝の庭を来た方と反対に歩き出す。オスカルは厩に私達を案内した。
「ぼくの馬を見せてあげるよ」
 厩には誰もいなかった。
「アンドレ、ネージュを出して」
 オスカルは厩の中に入っていく。
「うん」
 アンドレは一頭の白い馬に近づき手綱を取った。
「子供だけで馬小屋になんか入ったらあぶないよ」
 兄が心配して言った。
「ふふ」
 オスカルは息だけで笑うと白い馬の手綱を持って馬を外に出した。
「アンドレは馬にかけちゃそこら辺の大人より頼りになるんだ」
「そんな」
 アンドレの顔がかすかに赤くなった。
「アンドレ、マロンも出せ」
「わかった」
 立ちすくむ私達の前に白と褐色の馬が並べられた。
「子馬だから大丈夫さ。乗ってみる?ネージュはぼくの馬、マロンはアンドレの馬だ。さあ」
 オスカルが手綱を差し出す。
「僕、気性を知らない馬には乗らない事にしているんだ」
 兄は言って首を振った。オスカルは小さく笑うと軽々と馬にまたがった。
「じゃあ、君の妹を乗せてあげよう。アンジェリーヌおいで」
 オスカルに手を出されて私は馬の方へ歩み出した。本当は馬なんて恐くて触れもしなかったのだが、この時は不思議な感覚に誘われて馬の上のオスカルに手をさし伸ばした。
「大丈夫か、オスカル」
 アンドレが心配そうに声をかける。
「大丈夫さ、アンジェリーヌなんか軽いもんさ」
「そうじゃなくて」
「アンドレおまえも手伝え、アンジェリーヌ、ここに足を掛けて」
 アンドレに手伝ってもらい、オスカルに引き上げられ、私は馬上の人となった。
 高い。なんて高いの。
 オスカルが馬の脇腹を軽く蹴ると馬はトコトコ歩き出した。
「うわぁ、すごい、すごいわ」
 私はドレスを着ていたので鞍の上に横座りだった。
「少し走らせようか。しっかりつかまって」
 オスカルはもう一度馬の脇を蹴った。馬が大きく動き、風を髪に感じた。オスカルは慎重に手綱を引き芝の上を円を描くように走らせた。実際はほんの僅かの時間だっただろう。でも私にとってこの体験は世界が引っ繰り返るほど鮮烈なことだった。
 やがてネージュはマロンの元へ帰って行った。兄とアンドレが何か話している。
「何を話していた?」
 オスカルは私を馬の背から降ろしながら言った。
「マロンはここで生まれたって本当? 生まれた時本当に君達みたの?」
 兄の顔は少し上気していた。
「ああ、本当だ。さっきも言っただろう、アンドレは馬のことは何でも知っているんだ。アンドレのお陰でマロンは生まれてきたんだ。だからマロンはアンドレの馬なんだ」
「両方ともオスカルの馬だよ」
 マロンの手綱を持ったまま、アンドレは困った様に言った。
 オスカルはアンドレを横目で見ると、兄の方へぐいと一歩踏み出した。体が触れるほど近づき兄が何か言うのを待っている様な。兄はオスカルとアンドレを交互に見ていたが、オスカルの蒼い瞳をかいくぐってアンドレに手を差し出した。
「すごいな、君いくつ?」
 兄は尊敬を込めた眼差しで聞いた。
「九歳だよ」
「ぼくと同じだ。アンドレ僕たち友達になれるよね」
「うん」
 アンドレが頷いた。オスカルはこの時初めて笑った。
 

 その日から私達は何度もジャルジェ家に遊びに行った。
 四人にはやる事がたくさんあった。今日の続きが明日もやりたくて待ちきれなかった。私はこの日を境に子供部屋で一人で寝るようになった。


 
 ジャルジェ家に行くようになってから兄は少しずつ変わった。
 まず父に剣の手ほどきを受けた。もっとも父は剣を扱えなかったので、兄には剣の家庭教師がついた。その教師は乗馬も教えた。それから歴史やラテン語の勉強を熱心にするようになった。これは父の得意分野だったので、父は喜んで兄に教えた。今までの兄は勉強よりも外で遊ぶことの好きな子供らしい少年だった。勉強や剣をやるようになったといっても兄の遊び好きは変わらなかった。もっぱら私と遊ぶばかりだった兄はオスカルとアンドレという友を得て自分の世界を広げていった。

 子供達が仲良くなったので母もジャルジェ夫人と懇意になっていった。ジャルジェ夫人はオスカルが六人目の子供なので、若かった母は母親として教えられる事が多かった事だろう。だが母は、多分ジャルジェ家の肩肘張らない、見栄や虚栄といった事に無縁の、質素でありながらそれでいて人をもてなす暖かさに、居心地の良さを感じていたのだろう。
 ジャルジェ家にはオスカルとアンドレの他に三人の姉がいた。私は彼女らにお人形の様に遊んでもらったりもした。
「私達にもう一人妹ができたわ」
 彼女らはそう言って私の髪を結んだり、ドレスを着替えさせたりして遊んだ。
「オスカルはアンドレと遊んでばかりで絶対こんな事はしないんだから」
「本当に変わった妹だわ」
 彼女らの話を聞きながら、それでも私はこの時オスカルが女だとは多分気がついてはいなかった。
「さあ、素敵なお姫様が出来上がったわ、オスカルに見せていらっしゃい」
 ジョセフィーヌお姉様に手を引かれ、私は兄達が遊んでいる所へ姿を現した。
「オスカル見て、素敵でしょ」
 オスカルは振り向くとすかさず言った。
「そうだアンジェリーヌを姫の役にしよう」
「オスカルまた?」
 うんざりしたようにジョセフィーヌが言った。
「お姉様達も入ってよ」
「いいわ、わたしは。そのかわり姫を置いていくわ。さあ、アンジェリーヌ姫、オスカルが遊んでくれるわよ」

 それから私は捕らわれの姫となった。
 オスカルが話してくれた物語の中に私達は登場人物に成って入っていった。オスカルが騎士で、兄が世界を闇で覆おうとする魔界の王、アンドレが役者が足りなかったため、魔法使いと森に住む小人と案内役の小鳥だった。
 この日から私達は物語の主人公になりきって遊んだ。私は捕らわれの姫という役柄がすっかり気にいった。オスカルは様々な楽しい話を知っていた。時々ストーリーが変わったがそれはより心躍る内容になっていった。この話はどれほど長く続いただろうか。来る日も来る日も役者達はそれぞれの役どころを忠実に演じていたが、ついに騎士と魔界の王が何処かへ行ってしまった。助けを心待ちにしていた私は無事魔法使いに救出された。

 オスカルが女だと気が付いたのはいつだったろう。いつだったかはすっかり忘れてしまったが兄が母に聞いていたことは覚えている。
「お母様、オスカルは本当は女なのですか、男なのですか、どちらなのです?」
 いつもの兄らしからぬ真剣な様子。私は兄からその事を聞いた様に思う。
「アンジェリーヌ、オスカルは女なんだ」
 その時の兄は何やら沈痛とも取れる表情をしていた。私は兄が具合が悪いのではないかと心配したほどだ。でも私には事の重大さは解っていなかった。オスカルはオスカルでアンドレはアンドレでしかなかった。それで充分だしそれ以外の何者でもなかった。

ああオスカル様、こんな日々があったなんてなんて幸せだったのでしょう。
お互いをファースト・ネームで呼び合い、身分とか立場とかとは無縁の日々。
オスカル様、白状しますとね、私アンドレが好きだったのですよ。
多分最初に見た時から暖かいあの黒い瞳にくぎづけだったのです。
彼はいつも優しくて私の面倒をみてくれました。
だからという訳ではないけれど、私はアンドレが好きでした。
いつも私の手を握っていてくれたアンドレ。
私に話しかけ、笑わせてくれ、一人前の淑女として扱ってくれた。
見上げれば暖かい大きな目がいつもそこにあって、あの瞳が大好きでした。
そんな私でしたがアンドレはオスカルのもの、そういう考えがいつもありました。
どんなに彼が優しくても私はそれに甘えきることができませんでした。
甘やかされきっていた私の初めての自制です。
アンドレに何かあったらオスカルが黙ってはいない。
教えられた訳でもないのにそれは最初から解っていた事のようでした。
オスカル様、無邪気に遊んでいたようでしたが貴女にはそんな気迫が満ち満ちていました。
オスカル様、貴女はアンドレをその全存在をかけて護っていました。 

 そして今の彼の視線はオスカル様にのみ注がれている。その視線の語る雄弁さ。アンドレ、貴方の瞳は正直ね。貴方の中の想いが透けて見えてよ。

オスカル様、アンドレは平民だったのですね。
私はジャルジェ家を去るまで、そして去ってからしばらく経つまで、その事に気が付きませんでした。
随分大人になって、ジャルジェ家での事がいろいろと解ってくると、その時の私たちの時間というものが、もう二度とない珠玉の時間だったという事に気が付きます。
無くしてしまった宝物を探すように、私はその時を回顧するのです。
アンドレのような瞳にはあれから出会う事はありません。
兄は私に黒い髪が好きだなと言います。
お兄様こそお付き合いする方はいつも金髪に青い目。
そしてお相手はしょっちゅう変わる。
お兄様も何かを探しているような。


 私たちが遊んでいる時、アンドレは用事を言いつけられることがあった。
「アンドレ、馬小屋の掃除はやってしまったのかい?」
 そういった心無い言葉が私たちの遊びを中断した。
「すぐ戻るから」
 アンドレはそう言って駆け出すが、アンドレが遊びを途中で抜け出す事はオスカルが許さなかった。
「僕達もアンドレを手伝いに行こう」
 オスカルの提案に兄も私も賛成した。なんて素晴らしい思いつきなんだろう。
「アンドレ手伝いにきたよ」
 驚くアンドレを尻目に私達は勝手に厩に入り掃除を手伝った。といってもワラを散らかしたり、水を運んだり、こぼしたり。私達はワラをそこいら中に撒き散らして掃除をした。
 私達がワラだらけ水だらけになって部屋に入っていった時の母やジャルジェ夫人の顔といったら。声も出ないくらい驚いた顔をしてそしてこらえきれないという様に笑った。
 
 それからアンドレが遊びの途中で抜けることはなくなった。そして私の服装はだんだんは身軽なものになっていき、侍女達が着替えを五、六枚持参するようになっていった。でもどんなに服が汚れても私は着替えをするのは嫌だった。私が着替えている間にきっと皆は何処かに行ってしまう。
「嫌よ、早く行かないとオスカルもアンドレもどこかに行ってしまう」
 もうすでに兄とオスカルの姿はなかった。私にとって着替えとは遊びの輪の中から取り残される事に他ならなかった。
「大丈夫だよ。僕が待っていてあげる」
 アンドレは私の目の縁に溜まった涙を指で拭いてくれた。
「本当に?」
「うん」
 私は着替えを承諾した。もっともこの時侍女のコレットが私に耳打ちしたのも理由の一つだった。
「あまり汚いお召しものですとアンドレ様に嫌われますよ」
 
 着替えが済んで外に出てみると案の定誰もいなかった。ところがアンドレが一言「オスカル」と呼びかけると「ここだよ」と、どこにいたのか、風のようにオスカルが現れるのを、私は不思議な想いで見つめていた。

 夏になると彼らは木登りを始めた。ジャルジェ家には裏庭に大きな木が何本も植わっていて彼らは「暑いから」という理由で木に登り始めた。
「木の上は涼しいんだ」
 オスカルは履いてた靴と靴下を脱ぐと、木の幹に両手をかけ足をかけ登っていった。私は木に登るという行為を見るのは初めてだった。驚き戸惑ったが、オスカルの初めてみる白い素足を見つめているうちに、オスカルの体は繁った葉の陰に半分隠れてしまった。
「アンドレも来いよ」
 随分上の方で声が聞こえた。
「うん」
 アンドレも靴を脱いでオスカルと同じように軽々と登っていった。木の上で笑い声が聞こえる。まるですばしっこい動物のように木の幹を登って行く二人に私は心底驚いたが、その私をもっと驚かしたのは兄も靴と靴下を脱ぎ捨て木にすがりついた事だった。
「おーい、アルベールこっちだ」
 オスカルの声だ。
 私の記憶の中では兄は木に登ったことなどなかったはずだった。兄はオスカルのやったようにやろうとしていた。でもうまくいかない。アンドレがすべるように降りてきた。
「幹に両手をかけて、足はここ、足を思いっきり踏んで両手で幹を引きつける様にするんだ」
 アンドレのアドバイスが的確だったのか兄の体は浮くように最初の二又に到達した。
「あとは楽だよ。こっちの枝の方がいいかな」
 アンドレのアドバイスがあったにせよ兄はとても初めてとは思えない足取りでなんとか一つの枝にたどり着いた。
「アルベール、上手いじゃないか」
 オスカルの声だ。私は首が痛くなるほど上を見上げなければならなかった。兄のいるのは下の方の枝だったがオスカルはさらにその二つ三つ上にいる様で殆ど姿が見えない。ただ小さな白い足が空中で揺れていた。アンドレは兄の側にいて木の幹に背中をもたせかけていた。
 彼らはまるで低い塀の上を歩くように枝の上を歩き、枝から枝に飛び移った。そして枝や幹の上でくつろぐ事さえした。木の上は快適そうだった。木の下にいても涼しいくらいだからきっと気持ちがいいだろう。私は木の下に寝転んで日がな一日彼らの様子を眺めていた。驚いたことに兄には木登りの才能があったらしい。何日もたたないうちに何不自由なく枝の上を行き来出来る様になっていった。時々アンドレが降りてきて私の相手をしてくれた。でも私は一人でも充分だった。こうやって寝て三人の足を見ているだけで私も一緒に登っている気分になれた。
 オスカルが言うには「木登りははだしに限る」そうだ。兄も靴を脱いでいたしアンドレもそうしていた。三人の足の中でオスカルの足だけ華奢で細かった。兄やアンドレの足とは全然違う。その足幅の狭い白い足が今でも目に焼きついている。足を見ていれば簡単に分かる。オスカルは女だった。
 時々オスカルは靴を脱ぐのを忘れる事があった。靴を履いたまま登ってしまい、木の上でその事に気づく時が。いつもの白い足が見えないとどこか違った風景に見えた。そんな時はまず空から靴が降って来る。一つ、二つ。そしてその後でふんわりとした絹の靴下がひらひらと舞ってくる。私は可笑しくて声をたてて笑った。
「アンジェリーヌ、ごめん」
 上がらオスカルの笑い声が降り注ぐ。

「アンジェリーヌも登ってみる?」
 いつものようにオスカルが幹に手をかけ私を見た。蒼い目がいたずらっぽく笑っていた。
 私が? 
 そんなこと出来るはずがないと思いながらも私は木に手を伸ばした。馬の時もそうだったがオスカルに言われると出来そうな気がした。というより、甘い誘惑に絡め取られたように、恍惚感と共にうっとり手を差し出してしまうのだ。私が拒否しなかったためオスカルが叫んだ。
「おーい、アンドレ、アンジェリーヌも登らせるから手伝え」
 アンドレに抱きかかえられ、オスカルと兄に両手を引き上げられ、私は木の幹にしがみついた。木の肌はごつごつして少し痛かった。アンドレが下から押し上げてくれる。私は足をばたつかせながら何とか枝に足を掛ける事ができた。
 アンドレは私を木の又に立たせると自分は枝の裏側をつたってあっという間に私より高い位置に移動した。
「アンジェリーヌ、そこは危ないからこっちにおいで。足が滑り落ちるだろう。こっちの枝まで来られる?」
 アンドレが心配そうに私を見た。私には多分魔法がかかっていたのだろう。ちっとも恐くはなかった。枝の先にいるアンドレを目指して歩を進めた。アンドレは私が来るのを認めると自分は隣の枝に移った。
「そこでいい。そこに座ってじっとして。動いたらだめだよ。手を離したらだめだよ」
 アンドレは私が木の枝に腰掛けるのを手伝ってくれた。邪魔なドレスに私が足を引っ掛けないよう裾を払ってくれ、自分は不自由な体勢で、私がその木の特等席に収まるまで見届けてくれた。
 高い。そこは馬の背よりももっと高かった。私は世界の頂点に立ったような気がした。なんて晴れやかな気持ちだろう。でもその時私は大切な事を思い出した。そうだった。私は靴を脱ぐために片手を離した。
「アンジェリーヌ! 何やってんだ、手を離したらだめだよ」
 アンドレが叫んだ。
「靴を脱ぐの」
 私は片足を振り上げた。
「待って。僕が脱がせてあげる。だから手を離さないでじっとしていて」
 アンドレは私の前に回りこむと両足を枝にかけただけの体勢で器用に私の靴を脱がしてくれた。靴は私の足を離れ枝の上にそっと置かれた。
「これも脱ぐ」
 アンドレはやれやれというように私の靴下も脱がせてくれた。私は枝の上に置いてある靴を取ると下に落としてみた。靴は吸い込まれるように落ちていった。もう一回。アンドレがあきれたように見ている。私は笑いながらアンドレから靴下を受け取るとそれも下に落とした。
 オスカルが私の頭の所に来ていた。一つ上の枝に腹ばいになり腕を伸ばして私の髪にさわった。風のように柔らかく私の髪をもてあそぶ。
「オスカル、やめろ! アンジェリーヌ、上を見るな」
 アンドレがまた叫ぶ。柔らかい風は去り、代わりにオスカルのかすかな笑い声が優しく耳にまとわりついた。 
 私は目の前の二階の窓に人影を認めた。彼女は部屋の調度を整えていた。開け放たれた窓から風が入り、レースのカーテンが揺れている。私がいるここは二階の窓と同じ高さなのだ。私の小さな胸は興奮で一杯だった。その時彼女がこちらを見た。私は嬉しくなって手を振った。彼女は私をちらりと見ると手を振る代わりに急いで部屋を出て行った。間もなく彼女と入れ替わる様に庭に沢山の人達が現われた。
 母やジャルジェ夫人もいた。
「まあ、オスカルなんてことを!」
「アンジェリーヌ、降りなさい! すぐに降りるのです!」
「いえ、お嬢様手をお放しにならないで! すぐに助けに参ります!」
「ああ、そうね、手を離さないで! アンジェリーヌそのまま待っていられる?」
 私は皆が右往左往している理由が解らずそのさまを見る事さえ心が躍った。誰かが長いはしごを持ってきて木にかけた。私は降ろされるのだ。せっかく皆が登らせてくれたのに。
「嫌よ、降りないわ」
 私は木にしがみついた。
「まあ、アンジェリーヌ何て事を」
 母は気を失いかけていた。

 結局私は降ろされ、心躍る体験は短い時間で終わりを告げた。でもその後ジャルジェ家に立ち入り禁止になる事もなく、オスカルとアンドレと兄は相変わらず木登りを続けたし、私には枝から垂らしたブランコが与えられた。
 一体どんな話しあいが我が家とジャルジェ家で、あるいは父と母の間でなされたのかは知らないが、ドレスを引き裂き靴下までも脱いで木に登った私にとってはこの上ない幸運だった。私は二度と木に登る事はなかった。私は私のために作られたブランコが気に入ったし、あの貴重な体験は一回で充分だった。私は相変わらず三人の足を眺めながらブランコに乗って遊んだ。時々オスカルが降りてきて私の後ろに立って思いっきりこいでくれる。そんな時ブランコはどの木の枝よりも高く揺れた。

 母は私のおてんばぶりを責める事はしなかった。でも子供とはいえ、素足を憧れの人に見られたのは自分のした事とはいえ今になってみると恥ずかしい。自分の足は恥ずかしいけれど、オスカル様、あなたの足は子供から見ても印象的でした。

 私達は春から秋までの三つの季節を彼らと送り、父の赴任と共にフランスを離れた。それから続く長い外国暮らし。私はもう十八。母は私が二十歳になるまでになにがなんでも結婚させなければと思っている。私もいつまでも子供でいられるとは思っていない。母は私の結婚相手はフランス人と、叔父に願って探してもらっている。外国暮らしの私のために、叔父がほねをおってくれた。忙しい父と兄を任地に残し私と母だけここに来た。その方々に会うために。父の薦める、或いは叔父の探し出した、母の気に入る、良い人と、私は結婚するのだろう。父も母も、できればヨーロッパ一の宮廷のベルサイユに出入りする将来有望な人と、との平凡な親の考える希望を捨てていない。私はもう夢を見てはいけない。私の憧れの人と結婚できることなど万に一つもありえない。あれは夢。子供の頃みた甘い砂糖菓子のような夢なのだ。そう自分を納得させてきた。平民の彼に会う機会などもうないはず。彼が大海原に出て行ってしまったら、もう絶対に探し出す事などできはしない。彼は彼の選んだ可愛らしい少女と楽しく暮らすのだ。そう思ってきた。だからアンドレを見た時は胸が苦しくなった。ここにあの時の夢が少しも色褪せる事無く続いている。
 アンドレは凛々しい青年になりオスカルは光輝くばかりの美しい近衛士官になっていた。時は確実にその年月を刻んでいた。でもあの二人の上には残酷な時もただ通り過ぎただけ。時と共に人は自身の姿を変える。変えていく。望むと望まないとにかかわらず。でもここには絵のような奇跡があるばかり。私はあまりの懐かしさに胸が一杯になった。こみ上げるものを抑える事ができない。
 私が柱につかまって胸の鼓動を抑えていた時、戻って来たオスカルがこちらを見た。柱の陰を見つめ怪訝そうに瞳をめぐらせた。周囲に人々のどよめきが起こった。そしてそれはオスカルがこちらに近づくとはっきりとしたざわめきになり、興奮したささやきがあちこちで起こった。
「アンジェリーヌ嬢?」
 オスカルが柱の陰にいる私を認め、声をかけると、そのざわめきは蜂のうなりのようになり周囲に飛び交った。私はオスカルが気づいてくれた嬉しさと周りから人波が道を空けるように引いたことに驚き立ちすくんでいた。
「アンジェリーヌ嬢、本当にアンジェリーヌ嬢ですか? 懐かしい。父上や母上はお元気ですか? いつベルサイユへ?」
 オスカルは私の手を取ると膝を折って私の手に唇をつけた。人々の視線が私の背中に貼りつくのがわかった。私は嬉しさと懐かしさと恐ろしさでぶざまに震えていた。顔が嫌になるくらい熱い。目に涙もたまってきた。オスカルは私の手を取るとそこから離すようにゆっくり歩きだした。鏡の張り巡らされた回廊を歩く私を皆が振り返り見ていく。
「驚きました。フランスにお戻りになったのですか?兄上はお元気ですか?アルベールもご一緒に?」
 私は首を振るのが精一杯だった。オスカルは人波を避けるように私を庭につれだした。人々のいない目立たない木陰に着いて私は人心地ついた。あらためてオスカルを見上げ私は目を伏せた。
 美しかった。見つめることなど出来ないくらい美しかった。子供の時も綺麗だったが一体いつの間に彼女はこんなに美しくなったのだろう。時の神がその祝福を彼女にだけ与えたようだ。
「美しくなった、アンジェリーヌ姫。でもおてんばだったあなたも魅力的でした」
 オスカルの声に私は顔を上げた。
「オスカル様」
 自分の声を聞いてまた涙が出そうになった。オスカル様、オスカル様、なんて懐かしい響きでしょう。あなたの前でもう一度この名を呼べるとは思ってもみませんでした。
「おや、心外ですか? 確かに私に負けないくらい貴女もおてんばでしたよ」
 オスカルの指が私の髪にかすかにふれた。私の記憶はあの時の木の上に飛んだ。うっとりとする恍惚感。何ものにも替えられない至福の時。
「私の家にも来てくれますか? 母も喜ぶでしょう。そうだアンドレにも会わせなければ。きっと驚く。こんなに綺麗になった姫を見たらあの魔法使いのやつ」

 私はジャルジェ家に招かれた。夜は叔父が私のため招待を受けた舞踏会が詰まっていたのでオスカルは貴重な休みの昼間を私と母のために空けてくれた。ジャルジェ夫人の変わらぬ微笑みも、この屋敷も、なにもかも変わっていなかった。
「食事が済んだらこちらの部屋へ」
 母とジャルジェ夫人は夫人の居間へ、私はオスカルに誘われて二階へ上がった。
「今お茶の用意をさせている。どうぞ」
 オスカルが部屋の扉を開けた。私たちが部屋に入るとアンドレがお茶とお菓子とたくさんの果物の載せた盆を運んできた。初めて彼を真近で見る。アンドレは本当にたくましくなった。伸ばした黒髪もとても綺麗。そのせいか大人っぽく見える。私は伏せた顔が熱くなるのがわかった。


「アンジェリーヌ、本当に見違えたよ。オスカル、お前よくわかったな」
 この声。耳に心地よい柔らかい響き。私は目を閉じて聞き惚れる。
「まあこういう仕事をしていたら注意力も働くさ」
 二人の会話にはよどみがない。何年も交わされた自然な交歓。二人の間には絶ちがたい絆がある。私はそれが嬉しかった。変わらぬものがここにある。奇跡を人は欲するのだろう。
「アルベールに会ってみたいな。彼はどんなになっただろう。兄上は大変ではないですか? 沢山の令嬢方から引く手あまたで」
 オスカルはそう言って笑うが兄がここにいたら兄の人生は変わってしまうだろう。どのように変わるかは分からないが多分変わってしまう。
「アンジェリーヌが結婚だなんてもうそんなに経ったのだな」
 アンドレが懐かしそうに言う。私にはその距離が悲しい。
「アンジェリーヌ、覚えていますか」
 オスカルが私の手を取って窓辺に歩み寄る。目の前に初夏の陽光を跳ね返す眩しい緑。この木は…
そう私達が登ったあの木だ。低い位置から二又に分かれ、子供達を優しくその懐に包んでくれた懐かしいあの木。振り返る私にオスカルが微笑んだ。
「あの時の母上達の顔といったら。でもあなたの母上には悪い事をしたな」
 ではこの部屋は… あの時私が見たこの部屋は… 
「このお部屋…」
「そう、姉が嫁いだので今ではここが私の部屋」
 私はもう限界だった。込み上げるものを我慢できない。私は顔をおおって泣き出した。オスカルの手が私の肩にふれた。
「あなた達が行ってしまってからあのブランコは寂しそうだった。いつも一人で風にふかれていた」
「時々オスカルが乗っていたけどな」
 アンドレが側に来たのがわかった。気配を感じるだけで私は切なくなる。思い出す、あなたの優しさ暖かさ。ずっとずっと探していたあなたのような人。きっと私にはあなたより好きな人は現われない。
「アンジェリーヌ幸せに。私達はいつまでもあなたの幸せを祈っています」
「オスカル様」
 オスカルの胸に触れた私を彼女は拒まなかった。そっと抱き寄せてくれた。私はいつまでもその胸で泣いた。
   
   オスカル様、アンドレ、ありがとう。
   私はお二人からいただいた宝物を心の宝石箱にしまいます。
   大切な私の思い出。
   この宝は私の大きな力になってくれるでしょう。
   どんな時でも色褪せないこの輝き。
   時々取り出して眺めるの。
   私、約束します。幸せになります。
   お二人もどうかお幸せに…




                  Fin




          「初恋 ―アルベールの場合―」へ続く






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