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挿絵 市川笙子さま

移り香 T




「五月の薔薇」に続くジェローデル家の話になります。

ヴィクトール17才、フェルディナン22〜23才




 母の声で起こされた。
「フェルディナン、起きて。今日は宮廷で園遊会があるわ。あなた行ってちょうだいね」
 カーテンを開ける音がする。眩しい光が流れ込んできた。フェルディナンは寝返りをうち窓に背を向けた。
「遅れるわ」
 肩に手が触れる。夢の残骸が光の中で溶けてゆく。彼は半身を起こし髪をかき上げた。半覚醒の目に光が眩しかった。
「父上は?」
「お父様は用事があります」
「では母上が行ってください」
「お父様は貴方にと‥ さあ、起きて」
「やれやれ、宮廷での用事は全部私ですか」
「生意気な口を聞くのではありません。国王陛下や王太子殿下によく顔を覚えてもらうのです」
 日は高く上がっていたが明け方近く寝たのでまだ眠くてたまらない。部屋の中は光であふれていた。きっと天気が良いのだろう。
「エレナに言って着替えを持ってこさせます。早くしなさい」
 母の言葉に体を起こしかけフェルディナンはもう一度絹の中に沈んだ。出来れば園遊会など出たくない。
「ヴィクトールは?」
 暖かい絹の感触に未練を感じながら部屋を出て行こうとする母の背中に問うた。
「学校よ。とっくに出かけたわ」
 母は振り返りいつものように笑って答えた。



「フェルディナンさま」
 明るさの中にはにかみを含んだ声に彼は振り返った。人影の少ない木陰だった。初夏の若葉の下に薔薇色の頬を明らめ潤んだ瞳を輝かせたルイエル伯爵の令嬢が立っていた。
「これを貴方に…」
 彼女はそれだけ言うと持っていた薔薇を彼に差し出した。
「私に?」
 問う間もなくルイエル伯令嬢は真っ赤な顔をしドレスを翻すとその場から去って行った。
 フェルディナンは手にした薔薇を見た。淡い桃色の花弁がうっすら紫がかって見える。珍しい色だ。香りも良い。薔薇の季節は盛りを過ぎたはずなのに葉も花びらも生き生きしている。彼は令嬢の去った方を見ながらそれを胸に挿した。

 国王陛下、王太子殿下、王太子妃殿下と大勢の貴族達。園遊会は和やかにすすめられた。
 フェルディナンはマリー・アントワネット王太子妃殿下のすぐ後に近衛隊大尉の軍服を認めた。オスカル・フランソワ。誰でも知っている王太子妃付きの大尉。女だ。彼女の美しさはアントワネット王太子妃に劣らぬくらいだがこの世の全ての楽しみを投げ打ったような姿には女としての魅力を感じなかった。
 氷のようだ。フェルディナンは思った。先ほどのルイエル伯爵令嬢の真っ赤な顔。あの方が何倍も愛らしいというものだ。フェルディナンはオスカルの顔を見つめた。あの顔を見ていると弟のヴィクトールを思い出す。彼も何が楽しいのか、毎日毎日剣を振り回したり銃を磨いたり…。理解できない。だが今までは宮廷の事に興味も示さなかった弟も卒業を真近に控え宮廷に伺候する自覚でも出来たのか宮廷行事やアントワネット王太子妃殿下に感心を示すようになった。
 振り返るアントワネットに答えるようにしてオスカルが笑った。そうだ笑えば良いのだ。美しい。光輝くようだ。軍服など着ているのは大きな罪ではないか。オスカルの動きを見つめる彼に誰かが声をかけた。
「フェルディナン、素敵な薔薇ね」
 振り返るとブレゼ候爵夫人が立っていた。彼女は彼の胸につきそうな位顔を寄せてきた。
「よかったら、どうぞ」
 彼はそう言うと胸から薔薇を抜き取り彼女に差し出した。
「どうしたの? この薔薇は?」
 ブレゼ候爵夫人はフェルディナンから薔薇を受け取るとそれに顔をうずめ深々と息を吸った。横目が意味ありげに彼を見つめる。
「庭にあったものを取ってきました」
「そう」
 フェルディナンの言葉にブレゼ候爵夫人は嬉しそうに微笑んだ。
「お昼に見た時は貴方の胸にこれはなかったわ」
 彼は静かに目を閉じた。
「せっかくだからこの薔薇は私がもらっておくわ」
 彼女はそう言うと彼の薔薇を挿してあった胸からレースを引き抜いた。
「私に嘘をついた罰よ。これも一緒にもらっておくわね」


 家に帰ると執事が手紙を持ってきた。盆に載せられた手紙の差出人を見る。ドゥルーシュ伯爵夫人からだった。フェルディナンはテーブルの上に整えられた茶を飲みながら考えた。内容は大体推察できる。彼は封を切った。

 二日後、彼はドゥルーシュ伯爵家を訪れた。出迎えてくれた夫人は悩ましげに目を伏せると言った。
「フェルディナン、手紙を見て来てくれたのね。ありがとう。あの子ったら貴方がいないとだめなのよ」
 彼女はそう言うと彼の前に立ち一つの扉の前に案内した。よく知った部屋だった。扉が開けられる。部屋の甘い匂いが記憶を呼び起こす。
「セヴリーヌ」
 ドゥルーシュ伯夫人は続きの間から奥へ声をかけた。
「フェルディナンが来てくれたわよ」
 部屋の中で人の動く気配がした。ドゥルーシュ伯夫人は目で彼を促した。彼は奥の部屋に足を踏み入れた。
「セヴリーヌ、どうしたのです」
 部屋の中央の寝台に歩み寄る。青白い顔の女が臥せっていた。ドゥルーシュ伯爵家の一人娘。女は顔を上げて彼を見た。彼女は結婚前だから変な噂が立たないように充分注意している。伯爵は娘の行状を知らず伯爵夫人は困り果てながらも娘の気持ちに理解を示していた。
「具合が悪いと聞きました」
 彼の言葉に寝台の上の女は泣き出した。背後で扉の閉まる音がした。部屋に二人きりにするような配慮とも取れた。
 彼は寝台の上に腰をかけ女の顔を覗き込んだ。彼を見上げる女の顔は上気したように明らみ目に輝きが増した。彼は彼女の手を取ると口づけた。
「心配させないでください」
「フェルディナン、あなた最近来てくれないわ」
 女は顔を伏せ目からぽろぽろ涙をこぼした。
「このところ忙しくて… 顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」
 彼は女の顔に手をやった。彼女は泣いた為か紅く濡れた唇していた。彼はその唇にそっと口付けた。労わるような口づけだったが女の感情が堰を切った。
「愛しているわ、フェルディナン! 私、貴方がいないと…死んでしまうわ!」
 彼女はぶつけるように体を投げ込んできた。彼は女の肩を力を入れ抱きしめた。女はぐったりと彼に身を任せ顔を上向けた。彼はせがむようなその唇にもう一度口づけた。女の手が彼の背に回され彼女の唇は彼を離すまいとするように動いた。彼は女の顎に手をかけ開かせた唇に控えめに舌先を入れた。女の舌がそれに絡みつく。
 彼は彼女から唇を離すと体を抱いたまま寝台に倒れこんだ。唇を今度は首筋に移し柔らかい皮膚を舌先でなぞった。女が体をのけぞらす。彼は唇をさらに胸元に移し胸の中央のレースに手をかけた。女の息が上がってくる。レースをほんの少し緩め胸の谷間に指を入れた。
「あ‥」
 女の声が漏れた。彼は僅かにはだけた胸元の膨らみに先とは違う強い刺激を加えた。女の指が彼の髪に触れゆっくり動く。
 彼は彼女から体を離した。
「いけない。貴女の体に障る」
「フェルディナン!」
 女は拳を寝台に打ちつけると彼につかまって泣いた。
「お願い、私の側にいて! 愛しているのよ! 貴方が誰を好きでもかまわないから… 私の側にいて!」
「セヴリーヌ、落ち着いて。愛しています」
 彼は彼女の頭を胸に引き上げ髪を撫でた。
「明日また来ます。少しでも元気になってください。そうしないと…」
「そうしないと…?」
 顔を上げた彼女の目が問うように揺らめいた。女の心が透けて見える。彼は彼女を抱きながら真正面から目を合わせた。
「この続きを私に与えてくれる事を考えていますか? 貴女の為に自分を抑えるのがどれだけ大変か‥ わかってもらえますか?」
 女の顔に恍惚の表情が浮かぶ。彼は彼女の耳元に唇を寄せた。
「明日は貴女の笑顔にお会いしたい。笑っていてください。約束です」
 女の肩が動いた。
「明日はゆっくり貴女と愛し合いたい。時間をかけて… でも今度は‥貴女にも我慢してもらいますよ」



 フェルディナン・レイモン・ド・ジェローデル、ジェローデル伯爵家の長男。ジェローデル家の男達に特徴の煙るようでありながら艶やかな髪と淡い色の瞳。瞳の奥が見通せるような透き通った色、その色は光線の加減でさまざまな変化をみせた。
 彼の遠くを見つめる影のある表情や真っ直ぐ向けられる瞳に耐えられる女はいなかった。彼の瞳に見据えられ、不思議な色合いに魅せられてしまったらもう遅かった。知らずに彼に捕えられ、もう後戻りできないことに気づく暇はなかった。
 彼は女の全ての感覚を研ぎ澄ませてくれる。彼に見つめられ、触れられ、囁かれる瞬間、女としての喜びが一斉に花開く。自分は愛されるべき価値ある人間、彼のような男に相応しいのだと彼は教えてくれる。優しく扱われ、時に焦らされ、この世の全ての贅沢を約束されたように甘やかされ、彼のような男から甘えられる。忍び寄るようでありながら、自然に彼は女の身体をものにする。女は息をつく間もない圧倒的な喜びで彼に支配される。女としての官能を体に教えられてからはもう彼から抜け出す事は出来なかった。
 一度その匂いを味わうと何度でも欲しくなる草がこの世にあるという。あの痺れるような恍惚感とほとばしるような快楽。それが欲しくて何度でも彼を求める。彼はそれに応えてくれる。しかし決して彼が一人の女のものになる事はなかった。
 嫉妬と猜疑心。彼に溺れる事はひどい苦痛を伴うものでありながら、彼をあきらめることはできなかった。独占できない痛みと小さな安堵。それはどの女にも共通していた。そしてその痛みでさえ彼の前では征服される喜びに変わる。



 しっとりとした夜の闇。テーブルの上に強いオレンジの香りのリキュール。甘く作られていながらそれには強い酒がたっぷり入っている。グーリィ侯爵家の奥深い一室。館を取り巻く城壁は一際高く人を拒んでいるようだった。
「フェルディナン、会いたかったわ」
 艶やかなガウンを纏い女は彼の膝に腰を降ろす。彼女は男の肩に腕を回し彼の唇をオレンジの香りで塞いだ。女はテーブルの上の酒を手探りで探すとそれを一口飲み彼の唇にその香りを丹念に擦りつけた。
「嫉妬深い夫を持つと不自由で…」
 女は擦りつけたオレンジの香りを食べるかのように男の唇を貪った。
「あなたのような女を妻にしたら気の休まることはありません」
 男は手を女のガウンの内側に滑り込ませた。女の顔にゆったりとした笑みが浮かんだ。
「貴女はご自分の肌がどれほど男を狂わせるかお気づきになっていますか?」
 彼は女の乳房を手の中に包み込んだ。女の瞳にぬらぬらとした光が揺らめいたがくっきりとした口元は笑っていた。彼は手を動かしながら彼女に言った。
「私に罪悪感がないわけではありません。ここに来るのは止めようと思いながらできない。どうしても貴女が欲しくなる」
「貴方、年上の女は嫌い?」
 彼女は彼に胸を揉まれながら問うた。
「なぜ? 貴女は私に女の本当の魅力を教えてくれた人ですよ」
「貴方はどんどん男らしく魅力的になっていくわ。私のことなど忘れたかと思って…」
 女の声は落ち着いていたが息は上がってきていた。
「十九の頃より変わらずお慕い申し上げています」
 彼は女の胸に口付けた。
「女は美しく愛らしいだけでなく淫らだという事を知りました。そしてそれが最も魅力的だということを‥貴女は教えてくれた…」
 彼は頭に手をやり束ねていた髪を解こうとした。女がそれを阻止する。
「待って… 貴方の髪を解いて服を脱がせるのは私の仕事…」
 女は彼の服のボタンを外していった。男の顎を上げさせその胸に口をつけると強く吸った。彼は目を閉じされるがままになっていた。何も言わない。
「これで貴方は三、四日は他の女のところへ行かれない」
 女は男の胸に舌を這わせるともう一つしるしをつけた。もう一つ。そしてそのしるしは徐々に下にさがっていった。

 寝台はカーテンで仕切られた部屋の向こう側にあった。それを引き絞ると部屋の数箇所に灯された蝋燭の明かりを背景に目の前のガラスに女の裸体が映った。ガウンの下の素肌を晒し後から男の腕で胸を覆われその下に白い腹を浮き上がらせていた。
「私は蝋燭の灯りの下で見る貴方の瞳が一番好き」
 女は男の腕に手をかけうっとりしたように呟いた。男は顔を女の首に埋めていた。男の髪が女の胸に流れ落ちた。男が顔を上げる。彼もガラスに映る女の姿に気づいたようだ。
「貴方にその瞳で見つめられると心が疼くの」
 女は後ろから抱かれ男に胸を弄ばれる自分の姿を見ていた。
「疼くのは心だけですか?」
 男の吐息が首筋を這う。
「ふふ、自分で確かめてみればいいじゃないの」
 男の手が女の肌の上を滑る。女は片足を寝台脇の踏み台に載せた。最下部に達した男の指が女の肉をかき分ける。女は目を閉じ顎を上げた。男の指の侵入を阻むものはない。肉の隙間からたぎるように湧き出してくるものに男の指が濡れていくのがわかる。それに一層の刺激を感じる。男の指が掻きだしたものを擦りつけ広げてゆく。一つの刺激が次の刺激を生む。その流れに身を任せる。男の指は最も敏感な部分をどう刺激したらよいかを知っている。確実に芯をとらえゆっくりと繰り返す。女の腰が落ちた。彼女はもう立っていることができなかった。

 僅かなまどろみの後、フェルディナンは寝台から滑り降りた。女の手が彼を捉えた。
「もう、行くの?」
 眠っていたと思っていたが彼女は暗がりの中で目を開けていた。
「明日も来ます」
 フェルディナンは女の頬に唇を付けた。
「明日も来るのならずっといればいいじゃないの。夫は来週までいないのよ」
 彼は何も言わずもう一度口付けた。
「貴方はいつもそう。夜の明ける前にいなくなる」
 フェルディナンは窓の向こうの薄闇に目をやった。早い朝は間もなく明ける。彼は女と過ごした夜を朝まで持ち越すことはなかった。夜には夜の支配がある。朝の光はそれを易々と溶かしてしまう。夜の帳の中でこそ妖艶に息づくものが朝の光の中で同じ顔を見せるとは限らない。
「夜明けまでまだ間があるわ。もう一度貴方が欲しい。ほら見て、こんな残り火を抱えたままで一日過ごせないわ」
 女の手が彼の手を導く。そこはまだ柔らかくしっとりと濡れていた。彼女に深い眠りを…。彼の身体の動きに女はからだを開いた。高い位置から突き落とされる感覚と満足が眠りを誘う。彼は女を高みへと導いていった。



 日は高く上がっていた。フェルディナンは寝台から起き上がると部屋を出た。階下でにぎやかな話し声がする。彼は廊下に出ると二階の端からホールを眺めた。
 華やかに着飾った婦人達の一団がホールを横切っていく。
「ええ、今度のソースには絶対の自信がありますの。どんな香草を使っているか当ててみてくださいな」
 母自慢の昼食会だった。母は美食家で腕の良い料理人の噂は聞き漏らさず、どんな算段をするのか知らないがいつの間にか彼らを家の料理人に迎え入れていた。そしてそんな彼らに新しい料理を考え出すよう注文する。母の要望は漠然として不可解だった。だがその詩の一節のような要望をたちどころに理解する優れた料理人が現れた。朝の森のような、夏の泉のような、星を散りばめたような、という形容から数々の料理は生まれた。彼は最後に必ずマルグリット風と名前を入れた長ったらしい名前を料理につける。母は早速披露目の食事会を開く。料理人と母の相性は合ったようで彼は母の要望を次々と具現していきは母は彼の頼みであらゆる珍しい食材をさまざまな場所から取り寄せてきた。
 今日も客用のダイニングで新作発表が行われるというわけだ。フェルディナンは婦人達の最後に弟のヴィクトールの姿を認めた。彼はホールの途中で婦人達に挨拶をすると客間の方へ引き上げていった。彼にはまだ士官学校の最終学年が残っているが今日は家にいるようだ。弟は母に客があると律儀に付き合っている。彼が婦人達に人気があるのを母は知っている。
 フェルディナンは客の姿が見えなくなると階段を降り居間に入った。窓際の椅子に腰をおろす。窓は開いていて初夏の風が柔らかなカーテンを揺らしていた。
「フェルディナンさま」
 侍女のエレナが部屋に入ってきて驚いたように声を上げた。
「まあ、気づきませんで申し訳ありません。奥様の方に気を取られていて…」
 彼女はフェルディナンを一目見るとすぐに背を向け居間に続くダイニングに入っていった。入れ替わるように弟のヴィクトールが入ってきた。彼は窓際のフェルディナンを見ると怒ったように一直線にやってきて彼のシャツに手をかけると音を立ててそれをかき合わせた。
「兄上! 昨夜の情事の跡を隠すくらいのお慎みをお持ちください!」
 弟の剣幕が可笑しくてフェルディナンは笑った。ヴィクトールは横目で兄を睨みつけた。
「エレナに見られましたよ」
「かまうものか」
 弟は寸分の隙もなく身を固めている。
「食事の前に着替えくらいしたらどうです」
 弟が言う。
「もちろんそうしよう」
 彼は椅子から立ち上がった。
「エレナ!」
 ダイニングに向かって呼びかけるフェルディナンにヴィクトールは言った。
「お一人で…!」




「おお! フェルディナン、我が親友よ!」
 大袈裟で慇懃な出迎えを受けた。
「お前が来るとは思わなかった。今日のゲームは盛り上がるぞ」
 フェルディナンは友人のロドリグ・ジュールの歓迎をありがたく受けた。この悪友とは長い付き合いになる。
「退屈しのぎだ」
 笑うフェルディナンにロドリグは悪戯っぽい瞳で応えた。
 ロドリグは客間の前に立つと一気に扉を開け舞台挨拶でもするようなあらたまった声を張り上げた。
「御揃いの紳士淑女、とりわけ淑女の皆様! ジェローデル家のフェルディナンが到着しました!」
 ロドリグの口上の後に小さな歓声があがり囁くような忍び笑いが起こった。友人のロドリグ・ジュールは男サロンの主でその館はヴェルサイユでも遊び好きな男や女の溜まり場になっていた。彼のサロンでは毎回刺激的な遊びが繰り広げられるというので若い男女の間で評判だった。
 サロンに出入り出来るのはロドリグの目にかなった洒脱な人間である事が条件だった。家柄や役職よりもいかに軽妙で洒落ているかが重要だった。人を楽しませかつ自分も楽しめる人間、巧みな会話と垢抜けた印象、恋愛遊戯に長けたセンスと異性を惹きつける充分な魅力、それらが全てだった。
 ロドリグ・ジュールのサロンに出入りできることは遊び好きの若者達の間では一種のステータスだった。男の多くは大抵決まっていたが女は誘われて来るのだろう、いつも新しい顔が加わっていた。
「フェルディナン、しばらくじゃないか。お前がいないとどうも士気があがらん」
 仲間の男達が次々に握手を求めてくる。その後から女達がはちきれんばかりの興味を込めて見つめている。
「さあ、今日はどんなゲームで決めよう」
 ロドリグがテーブルの上に卓上ゲームの盤を置いた。テーブルの上の料理はすでに食べ散らかされ宴は佳境に入っている様だった。
 このサロンで好まれて行うゲームに『エスクラーヴ』〔奴隷〕というのがある。簡単なゲームをして順位を決める。最も勝った者が最も負けたものに命令できる。次に勝った者が次に負けたものにと順番に組み合わせていく。ただし順位が下がるにつれ命令の数は一つずつ減っていく。参加人数が多ければ多いいほど命令できる数は多くなるというわけだ。命令する内容は全くの自由だ。大抵は思い人や秘密を告白させたり、恥ずかしい質問に答えさせるものが多かったが、誰々にキスをしろ、ドレスをまくって足を見せろなどいうものもあった。当然過激な命令のほうが喜ばれる。奴隷を使った主人の才覚が試されるという訳だ。誰々にキスをしろと命令された奴隷が平手打ちを食わされたり、濃厚な即席恋愛を見せるのを観客は大いに沸きあがりながら見物する。
 一度フェルディナンが最も負け最も勝ったロドリグに五つばかり命令された事があった。まず彼はフェルディナンに最も気に入った女に愛を告白するように命令した。フェルディナンは一通り見渡し初めて見る顔の女の手を取り愛を告白した。周囲の仲間が一斉に野次る。
 次にロドリグはフェルディナンの上半身の服を脱ぐよう命令した。彼は上着を脱ぎシャツのボタンを全部外した。女達が互いに興奮した声を制し合うのが聞こえた。主人はそこまでで良いと手で制した。
 次にロドリグは愛する女に手を使ってゼリーを食べさせるようにと命令した。奴隷は命令を拒否できないが相手は拒否するも受け入れるも自由だ。フェルディナンは女の目を見た。初めて来たサロンでの趣向を彼女は完全に理解していないかもしれない。拒むなら今のうちだ、彼は瞳で彼女に語りかけた。女の顔は驚いたように強張っていたが彼がテーブルの上に置かれた柔らかいゼリーをすくい取るのを黙って見ていた。彼はゆっくりと彼女に歩み寄った。回りの人垣が女の側から一歩退いた。拒否しないのなら‥ 彼は女の腰を引き寄せ至近距離からその顔を覗き込んだ。
「口を開けて」
 女の耳に彼の声は届いていなかったかもしれない。彼女の意識の半分は既にどこかに行ってしまっていた。彼は女の顔を上向かせ僅かに開けた彼女の口の隙間に指を差し入れゼリーを流し込んだ。そして指に付いたゼリーを女の唇で拭い彼女の口の端についたものも指ですくい取りそれを舐めさせた。いつもは、はやし立てる人垣がこの時は息をつめて二人を見つめていた。ロドリグでさえ次に命令を下す事を忘れていた。水を打ったような沈黙の後、慌てたようにロドリグが言った。
 女の指を舐めろ。女は力が抜けたように床に座り込んだ。フェルディナンは彼女に倣い同じように床に膝をつくと彼女の手を取り目を見つめながら細い中指と人差し指を口に含んだ。女は放心状態だった。手を引くことをしない。その表情は魂を抜かれたようでありなあがらな男にもっと何かを求めていた。回りを取り囲んだ人垣が床に這うようにして成り行きを見つめている。彼はゆっくりと女の指の腹を舐め爪を舐めた。女から目を離さず彼女の反応を見る。女の口からため息が漏れた。耐えられないと言うように彼女は声を上げた。衆人環視の中だという事を女は忘れていた。その表情は彼女の理性や羞恥より官能が上回っている事を示していた。
 ロドリグが唾を飲み込む音をさせ最後の命令をした。愛する女に口移しでワインを飲ませろ。フェルディナンの前にワインの入ったグラスが差し出された。彼はそれを受け取ると女の様子を見ながらグラスの端に口をつけた。女が拒否するのなら時間を与えようと思ったのだ。だが彼女が拒否することを思いついた様子は無い。女は空ろな眼差しで彼を見つめていた。最後の命令だ。腕に力を込め女の背を引き寄せる。彼女の唇にぴったり口をつけ少しずつワインを流し込む。女の喉が音をたてそれを飲み込む。まわりから張り詰めたような空気に耐えられず息を漏らす音が聞こえた。
 もう一度。ロドリグが言った。本当はルール違反だった。だがフェルディナンはもう一度ワインを口に含むと彼女の喉にそれを流し込んだ。女の喉が動いたが今度はワインは口の端からダラダラと流れ出した。紅い液体は女の頬から首を伝った。彼女は気を失っていた。

 今日のゲームの参加者は十一人。フェルディナンは五番目だった。丁度真中だ。命令する事もなければされることもない。参加者は主人と奴隷に分かれ中の組から命令をしていく。ロドリグがフェルディナンに命令したあの日から『エスクラーヴ』はより過激になっていった。
 ロドリグ・ジュールのサロンには即席の恋人の為に部屋まで用意されていた。宴の途中でメンバーが消えることはしょっちゅうだった。ここでは野暮なことはなし。強制もしないが欲望を抑える事もない。
 ロドリグは女の奴隷に自分の膝の上に乗るよう命令していた。彼は順位を決めるゲームで負けたためしがない。一度負けるところを見たいものだ。女は後向きでロドリグの膝頭に少しだけ腰をつけた。次に彼は別の男の膝に乗るよう命令した。女は先とは違い大胆にドレスをたくし上げると男の膝の上にまたがった。ロドリグを挑発しているのだ。歓声が上がる。
 フェルディナンは部屋を出た。この陽気に部屋を締め切っている為か暑くてたまらない。今日は命令する方でもされる方でもない。涼しくて静かな部屋で昼寝でもするか。彼は二階に上がった。
 ロドリグの館での遊びは楽しいが時々うんざりする事もある。充分身勝手な言い分だともわかっているが今日の部屋の熱気からは逃れたかった。フェルディナンはこの館で最も静かな部屋の扉を開けた。
 高い窓から日差しが差し込んでいる。思ったとおり涼やかな空気が彼を迎えてくれた。だがあいにく先客がいた。
 高い書架の前の書見台に一人の女が本を置いて読んでいた。椅子がなかったので台の上にかがみ込んで読んでいる。フェルディナンが入ってきた気配に気づくと女は弾かれたように見ていた本を閉じた。
「あ…」
 女は顔を上げた。その顔には驚愕の色が浮かんでいた。見た事のない女だった。ロドリグには男の兄弟ばかりで女はいない。という事は今日の客だろうか。客間にも行かずこの女はここで何をしているのか…。
 女は息も止まりそうなくらい驚いていた。図書室にいきなり入ってきた闖入者を認めたにしては驚きすぎではないか?
「申し訳ない。誰もいないと思ったもので…」
 フェルディナンは無礼を詫びた。
「あの、私こそ断りもなく入ったりして…」
 女は閉じた本をそっと押しやり背で隠すように書見台の前に立った。
「本をご覧になるのなら私は出て行きます。本を読みに来たのではないので…」
 フェルディナンはそう言うと笑った。彼が昼寝をしようと思っていた長椅子はなかった。模様替えでもするつもりだったのか、この部屋には家具がなかった。三方向の壁を取り巻く本だけで座って読むための机は勿論一脚の椅子もなかった。天井近くまで設えた書架にびっしり本は納まっていたがそれが読まれている形跡は無かった。
 女は赤い顔をして立ち尽くしている。フェルディナンはこの女に興味を持った。女が本を読むなど珍しい。そんな変わり者は彼が知っている限りではイレーヌ伯母くらいだった。
「何を読んでいたのですか?」
 彼は女に近づき書見台の上にある本の表紙を確かめようとした。
「私、読んでいたわけでは…」
 女は首を横に振った。
「珍しい本が沢山あったものだから見せてもらおうと入っただけです」
 女はさらに激しく首を振った。
「とがめだてするつもりはありません。本は飾っておくものではありません。読むものです」
 近づくフェルディナンを避けるように女は一、二歩後に後さった。だがその背で本を隠す事は忘れなかった。
「読んでいたわけではないのです。ただちょっと見せてもらおうと…」
 女は先と同じ事を言った。
「そうですか」
 彼は女を見つめた。彼女はうな垂れるように目を伏せ首を曲げていた。大きく見開かれた先ほどの目は鮮やかな青だった。小柄でほっそりとしたからだ、小さくまとめた髪と控えめなドレス。ロドリグの館に集る女にしては地味だった。だが彼女は美しかった。
「貴女はたまたま入ったこの部屋でたまたま手にした本を見ていた。そうですね」
 彼は優しい声で言った。彼女はまるで悪戯を見つけられた子供のように見えた。
「え、ええ、そうですわ」
 彼女はうつむいたまま答えた。フェルディナンはもう一歩彼女に歩み寄った。女が顔を上げた。彼は書架の高い位置を見つめた。そこには本を抜き取った跡が黒い口を開けたようにぽっかりと開いていた。彼の動きにつられるように女の顔も書架の方を見た。彼女の顔はさらに赤くなった。あの空洞は彼女の背では届かない。この部屋には踏み台の一つもなかった。この女は本を取り出すのにこの所見台によじ登ったに違いない。
「私… あの…」
 女は何か言い訳でもしたいようだ。だが言葉が出てこない。
「この本はどうでしたか? 何か興味深いことでも書いてありましたか?」
 彼女は何も言わず首を横に振った。相変らず顔は赤かったが観念したような表情にも見て取れた。彼は彼女にもっと何か言って困らせてやりたい衝動に駆られた。
「どうします? しまいましょうか?」
 彼は台の上の本を手に取った。女は頷いた。フェルディナンは腕を伸ばすと先ほどの空洞に本を押し込んだ。
「何かお手伝いできる事があればしますが…」
 彼の申し出を女は受けなかった。彼女は急いで部屋を出て行った。

 女の出て行った先を見ながらフェルディナンは考えた。黙って部屋に入り本を物色していたことを見咎められたにしては女の様子がおかしかった。図書室で本を見て何が悪いというのだ。人のいないことをいい事に図書室で愛の行為に耽る輩もいるというのに。あの女は本を見ていたのではなく何か別のことをしようとしていたのか…? ひどく慌てて赤い顔をしていた。
 フェルディナンは思いついて先ほどの位置から本を抜き取った。彼は本を台の上に置くと自分も書見台の上によじ登り本の収まっていた空洞を覗き込んだ。何もない。何かが隠されている事もなくその奥がどこかに通じているわけでもなかった。自分の取った行為が愚かしくてフェルディナンは笑った。何を考えているのだ。ロドリグの館に来るとロドリグの思考に支配されてしまうようだ。あの女は空洞の奥を覗いていたのではなく明らかに本を見ていたのに…。そうだ本を読んでいた。それもたまたま手に取った本を見ていたのではない。書見台に屈み込み貪るように読んでいた。一体何を読んでいたのだ?
 彼は取り出した本をもう一度手に取った。二冊あった。ずっしりとした重み。百科全書の一冊とその図版だった。こんなものたまたま手に取るはずなどない。あの女は明らかに何か目的を持ってこの本を見ていた。一体何を… フェルディナンは本のページをパラパラと繰ってみた。一度も開かれた事のない新品だった。だがそこに一箇所くせをつけたように自ら開く力を持ったページがあった。彼はそこを開いてみた。医学と薬学のページだった。
 まさか、ここを見ていた訳ではあるまい。誰かの具合でも悪いのか… だったらこんなものを見ていないで医者に行けばよいのに… 
 彼はもう一つの本を開けてみた。ここには先の本よりも読み込んだ跡がありページは簡単に開いた。フェルディナンはそこを見て仰天した。人間の解剖図譜だった。
 そこには皮を剥がれた人間の図が描かれてあった。皮膚の下の人間の筋肉の様子、取り出された内臓、神経や血管の走行図。それだけではない。解剖や外科手術に使うであろう道具の種類までが描かれてあった。フェルディナンは図版を閉じた。気持ちの悪いものを見てしまった。男の自分でさえこんなものを見るとぞっとする。まして女の見るものではない。あの女は本気でこの本を見ていたのだろうか… 考えられない。美しい顔をしながら何という… 彼は急いで本をしまうと部屋を出た。
 フェルディナンは客間へ降りながら二階の図書室の方を振り返った。静かで心地よい空間だった部屋におどろおどろしい魔物が潜んでいるように感じられた。

 客間に女の姿はなかった。そこでは『エスクラーヴ』の乱痴気騒ぎが繰広げられていた。ロドリグはフェルディナンの姿を認めると怒ったように言った。
「どこに行っていたんだ。お前がいないとゲームが盛り上がらないだろう」
「悪かった。ちょっと聞きたいことがある」
 フェルディナンは酔っぱらったようなロドリグを部屋の外に導きだした。
「ロドリグ、今日はもう一人客がいるだろう」
 ロドリグは顔に何かの余韻を残したような薄ら笑いを浮かべフェルディナンの方を見た。
「あ? ああ‥ そういえばデュルフォール男爵令嬢が来ていたな」
「彼女は…」
 問いかけるフェルディナンを遮るようにロドリグは言った。
「帰ったよ」
「何だって?」
 ロドリグは背を伸ばし、先ほどの酔ったような笑いとは別人のような表情をした。
「フェルディナン、あの女は止めろ」
 ロドリグは姿勢を正すと廊下を歩いた。
「どういう事だ」
 ロドリグはフェルディナンに背を向け大きく息を吐き出した。
「あの女は若く見えるが二十歳をいくつも過ぎている」
「だから何だと‥」
「それに」
 ロドリグは振り返った。
「一度結婚して今は家に帰っている」
「結婚している女は嫌いじゃない」
 フェルディナンの目に強い光が宿ったのを見てロドリグは言った。
「フェルディナン、あの女は止めておけ。彼女がなぜ帰されたかわかるか?」
 ロドリグは声を潜めフェルディナンを廊下の隅に引っ張った。あたりに人影が見えないのを確認するように彼は首を左右に向けると声を潜めて言った。
「あの女は夫を殺したらしい」
「何だって?!」
 フェルディナンの声にロドリグはわかったかと言うように笑みを浮かべた。
「お前は知らないだろう。あの女の事も、あの女の家も‥ 確かに美しいよな。夫を殺すようにはとても見えない」
 ロドリグは胸の前で腕を組んだ。
「信用するもんか。夫を殺した女がなぜ罪を問われないでいられるのだ。お前の館に出入り出来るのは何故なんだ?」
 悪戯好きの友はこうしてからかうつもりなのだろう。まんまと乗せられるとあとで笑われる。
「フェルディナン、これは冗談じゃないんだ。彼女が夫を殺したとは言っていない。疑いがあるのだ。実際彼女は警察に調べられている。証拠不十分で釈放さ。疑うのなら誰にでも聞いてみろ。皆知っている」
 ロドリグは真顔だった。悪戯好きと言っても悪戯にして良い事と悪い事がある事くらい彼は知っている。
「彼女はずっと前から血の匂いがすると言われていた」
 彼は気の毒そうに続けた。フェルディナンの目に皮を剥がれた人間の図が浮かんだ。
「血の匂いとはどういうことだ‥」
 フェルディナンの目が本気になったのをロドリグは認めた。
「さあな。彼女はシェニエ伯爵家に嫁いだ。シェニエ伯爵は裕福だが彼女より二十も年上の男だ。多分財産目当てだろう。彼女の家は決して裕福とはいえない。ここからはジネットの話なのだが」
「誰だ?」
「シェニエ伯爵の姉だ。結婚しないでずっと家にいる。レイアはその家で三人暮らしだった」
「レイア‥ 彼女の名前か? レイアというのだな?」
 フェルディナンは彼女の横顔を思い出した。真剣な表情だった。
「ああ、レイア・クラリス・ド・デュルフォール」
「レイア・クラリス・ド・デュルフォール‥」
 フェルディナンは口の中でつぶやいた。
「ある夜、ひどい物音がするのでジネットが部屋に様子を見に行った。夫婦の寝室だ。耳をすますとなにやらうめき声がする。彼女は扉を開けてみた。すると‥」
 ロドリグは言葉を切ってフェルディナンを見た。彼の様子を窺っているようだ。ロドリグの口上は芝居がかっていたが妙な説得力があった。ロドリグは続けた。
「苦しみもがく伯爵の胸の上にあの女が、レイアが乗っかっていたのさ」
 フェルディナンは目を閉じた。
「それで‥?」
 彼は目を閉じたまま俯き胸の奥から声を絞り出した。
「その後シェニエ伯は死んだ」
 ロドリグが手を伸ばしフェルディナンの首にかけた。彼は目を開けた。
「締めたのか?」
「締めた痕はなかった。だから釈放さ。だがシェニエ伯の心臓は止まった」
 フェルディナンは胸が苦しくなった。剥き出しにされた心臓の図が頭をよぎった。
「元々シェニエ伯は心臓が悪かったらしい。だから狙ったともいえる。財産を乗っ取るにはいい相手だ」
 ロドリグの瞳は全ての謎を知っているとようにきらめいた。
「だがその後が計算違いだった。彼女は警察に捕らえられ財産を乗っ取るどころか一文無しで放り出されたというわけさ」
 ロドリグは強張っていくフェルディナンの顔を見つめた。
「あの女は魔女だと言う者もいる。何やら得体の知れない薬をシェニエ伯に飲ませていたらしい」
「もういい!」
 フェルディナンはロドリグの言葉を遮った。レイアは薬草のページを読んでいた。
「分かったか? フェルディナン、あの女は止めておけ。危険すぎる。お前みたいな男、毒を塗った長い針で…」
 ロドリグは長いものを取り出すような仕草をした。
「突かれるぞ!」
 彼は一気にフェルディナンの胸に拳を打ちつけた。



「移り香 U」に続く


イラストのアップがあります。




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