20037/26
イラスト 市川笙子さま
文 マリ子
慟 哭
目の前に飛び出してきた黒い影。
一瞬だった…
これは現実なのだろうか…
手に付く生暖かい感触に慄然とする。
目の前で命が流れ出してゆく…
わたしの命。
わたしを支え、導くもの…
わたしを抱きしめ、わたしを暖めた
愛してやまない掛け替えのない存在。
それが今…
震えが襲う、恐怖と共に…
去りゆく何かをつかまえるようにわたしは手を伸ばす。
美しい髪、顔も温かい。
おまえがいたからわたしは生きられた。
これからもずっと一緒だとおまえは言った。
わたしを離さないと!
おまえがわたしを残し一人で逝ってしまえるわけがない。
目を開けてわたしを見るのだ!
一人では生きられない。
おまえのいない世界で息はできない。
神よ!
わたしが知らずに犯した罪を彼の血で贖わないで欲しい。
彼を取りあげてしまうのなら
わたしの心臓も打ち砕いてくれ。
苦しみを感じないように
わたしを、砕いて…
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