2003 9/21
文 さくやさま

さくやのフィンランド紀行




思い立ってフィンランドで夏休みを過ごすことにした。
3歳の息子を連れての2人旅、である。
フィンランドには私の親友Aがいる。
Aとは学生時代、同じ学校に通った仲間。
以降、年に一度はフィンランドを訪ねたり、彼女が日本を訪れたりと交友を深めてきた。
お互い、子供が生まれてからはなかなか気軽な行き来はできなくなっていたが・・・、そうだ!フィンランドに行って我が親友殿のところでゆっくり過ごし、リフレッシュをさせていただこう!と思い立ったのである。
フィンランドといえば、ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン伯の国スウェーデンの隣、歴史の中ではスウェーデンの統治下にあった時代も長いという。
ならば、オスカルが生きた時代、フィンランドはスウェーデンであったかもしれない!
そうだ!!向こうに行っている間にオスカルがフェルゼンの故郷を訪ねる、という話を書こう!と思いつく。

チビ連れの旅というのは10倍大変だ。
フィンランドの入国審査の列に並び、あと一人、というところで・・・、
「ママ、おしっこ〜」
「ええっ?!!後、一人なのよ?!我慢できないの?!」
と眉を吊り上げる私に息子は
「我慢できる・・・」
と眉間に皺をよせて足をもじもじ・・・。
ええい!!しかたない!!
列からはずれ、トイレへ急ぐ。
戻ってきた時は列は倍の長さになっていた・・・・。

ヘルシンキ空港に降り立ってまず驚いたことは・・・。
あ・・・暑い・・・・・。
「今年、フィンランドは例外的な暑さよ〜。24度もあるからそのつもりでね!」
出発前のAからのメールにはそう書かれてあった。
けっ!24度?楽勝じゃん!
フィンランドに行くと、だ〜い好きな夏がなくなっちゃうからな〜、などとウソぶいて出掛けたバチがあたったのか・・・・・。
30度も!!!ある〜〜〜〜!!と発狂寸前!
だって、だって、だってね?!向こうって暑さに対する防御が何もないんだよ?30度の街中をうだりながら歩いていて、ふっとお店に入っても・・・・、冷房なし!ただモアッとするだけ・・・・。
ふぅぅぅ、マクドナルドでランチでもしようかな・・・、ちょっと涼んで・・・などと思って入っても・・・・、汗をかきかき食べるだけ・・・。
Aの話によるとフィンランド中の扇風機が売り切れてしまい、ないのだそうだ・・・。
おおお!東芝よ!Nationalよ!サンヨーよ!!何している?!!今こそ、ここに来て、扇風機を売りさばけ!と一人熱くなる。
3日目くらいから、私もこれは本腰を入れて暑さしのぎをせねば!!と覚悟する。
1. ペットボトルに水を半分ほど入れて、ななめになるように冷凍庫に入れて凍らせる。外出の時、残り半分に水を入れていく。
2. ペットボトルにジュースを入れて凍らせる。冷凍庫から出して溶け出したところで思い切りシェイクする。シャーベット状になって美味〜。
3. 外出時は濡れタオルに氷を何個か包んで持っていく。首の後ろにあてるとぐっとクールダウンできる。
他にも、バナナを凍らせて食べるとか、氷はどんどん作っておいてガンガン水に入れろ、とか、Tシャツを冷蔵庫に入れておいて着る、とか。
そんな知恵がものすごくありがたがられた。
「へぇ〜、そうやるのぉ?」
と、すっかり感心されてしまった。

私は早速、友人に2週間とちょいのこの滞在中の豊富を語った。
「今、書いているSSは仕上げて、それからヒロインがここへ訪ねてくる、っていう短い話を一本書きたいの。」
彼女はすっかり協力的になり、「どう?この石畳、100年以上前からあるのよ?あの街灯もそう。インスピレーション湧く?」などと、古そうなところへ連れていってくれる。
うん、なかなかいいぞ、やっぱり本物の中で浸れるっていうのは!ええっと、オスカルが何かの用事でフェルゼンを訪ねるってことにしよう。当時ヘルシンキ一帯はフェルゼン家の領地だったってことにして・・・、などと空想が膨らむ。
「ねぇ、ねぇ、フランス革命の時、ここら辺はスウェーデンの領地だったのよね?」
うきうきと訪ねる。
「え?ここ?ヘルシンキ?ううん、その頃はロシアの統治ね。」
・・・・・・だめじゃん・・・。
「あ、じゃぁ、いいや、ヘルシンキじゃなくて。トゥルクのあたりは?」
「そこもロシア。その頃はロシアの統治だったの。」
ぷしゅるるるるるる・・・・と音をたてて膨らんだ妄想がしぼんでいく。
「どうしたの?」
「う・・・うん、何でもない・・。じゃ、オスカルがフィンランドに来たってのはあきらめるわ・・・。うん、ストックホルムでいいや・・・。」
「なんでぇ?!いいじゃない!!フィンランドで!」
「そういう訳にいかないのよ!!ヒロインはスウェーデン人に恋してるんだから!!」
「いいのよ!そんなこと!ここへ来た理由なんて何でも考えればいいでしょ!」
あ・・・うん、そうね・・・。そう・・・かも・・・。
強引な友人に促され妄想は続行されることになる。

ところで友人Aにはもうじき2歳になる娘がいる。
はっきし言ってお人形さんが歩いているようなかわいらしさ!!
息子もすっかりのぼせあがり、見つめては「Mちゃん、かわいい・・・」とラブコール。
瞳はAにそっくりの深いブルー。
明るい光のもとでは本当に吸い込まれそうな深い蒼。
ううむむ・・・、これぞ、オスカルさまの瞳だわ・・・と溜息。
髪の毛はサラッサラッの金髪。
昔、「金髪で健康なストレートってなかなかいないのよね」と思っていたが北欧にきてその考えは覆された。
本当にきれいな金髪が多い。
Mちゃん、こ・・・この子、いいわっ!!
お年頃になったらコミケのシーズンに騙くらかして日本にさらってきてオスカルのコスプレさせよう!!とおばさんの目が怪しく光る。
「ふっふっふっ・・・フィンランドに帰してほしければ、大人しくこの衣装を着な!」な〜んて・・・。おっとヨダレが・・・、(あぶない、あぶない・・・)
しかし・・・、この子の両親の髪って二人ともライトブラウンなのよね・・・。
「ねぇ、あなたもH(ご主人)も髪の色はライトブラウンじゃない?ってことはMも大きくなったらライトブラウンになっちゃうのかしら?」
「うん、多分ねー。」
・ ・・・そ・・・そんなぁ・・・!!殺生なぁ!!
ああ、またプシュルシュルシュルと音をたてて妄想が・・・・。
がっくし・・・・。

ご主人Hのご実家のサマーコテージに行く。
小さな島の先端にそのコテージはある。
島にはそのコテージしかなく・・・、つまり島全体が彼らのものってこと。
私がいるので遠慮してたけど、いつもはここに着くとすっぽんぽんで海に飛び込むのだそうだ。
今日は水着を着用する。
コテージのリビングからは3方向に窓が見える。それらのどれを見ても海が開けているのだ。
ほんっとうに!!夢の世界!!
ランチの後はコーヒーを外に持ち出してデッキチェアで頂く。波の音を聞きながら本を読み、ウトウトとお昼寝をする。
目がさめたらHが釣りを教えてくれた。
釣竿の糸を離して投げるタイミングがむずかしいのだそうだ。
「自分は子供の頃から何度も練習したから。最初は皆できないんだよ。ひっかかってもいいからね。」とフォローをしてくれる。
えいやっ!と海に向けて竿を投げる。
シュルルルルと糸ははるか遠くへ。
「す・・すごい!!」
と褒められてしまう。
そしてもう一度。
やはり糸は遠くへ放られる。
「すごい!!才能だよ!!」
とまたまた褒められる。
そこへ友人A登場。
Hがさくやは才能がある!と今の様子をAに驚いた様子で説明する。
「私、ここで漁師をしながら生活することにしたわ!」
と自慢げに言う私にAは一言。
「・・・で、魚はどこ?」
・ ・・・・・・。
鋭いご指摘ありがとう・・・。

フィンランドといえばサウナ!!
サウナに入ってあっつ〜くなったところで、そのまま外の海や湖にドッポンと飛びこむ。
一泳ぎしてまたサウナへ・・・。
ビールを持ち込んで中で乾杯!なんてことも・・・。
くーーーーーっ!!こたえられません!!
だから、サウナとセットでプールが室内にあるっていうのもよくあるパターンだ。
始めてAの実家で室内プールをみた時は感動したわ・・・。そんなものが普通の家庭にあるなんて、日本だったらウルトラリッチな家庭よね・・・。室内プールがあるなんて。
Aはよく、いいサウナ、好きじゃないサウナ、とサウナの評価をする。
湿気が丁度よくて、香りがいいのがいいのだそうだ。
中が乾燥していると、彼女はホースでジャバジャバと水をサウナの部屋中にまいたりする。
水を焼けた石に投げかけてジュワッと蒸発させ、その上がった蒸気と温度を楽しむ。
「これは邪道だけどね・・・」と教えてくれたのはヒシャクの中にビールを数的たらして石に放る。
蒸気とともにふわっと麦の焼ける香りが・・・。う〜ん、気持ちいい・・・・!
「日本では石に水かけるの禁止されてるんだよ。水、まくのもだめだし、濡れタオルほすな、とかすごく厳しいの。」
という私の説明に首をかしげる彼女。
「なんでだめなのよ!」

うん、今ならわかる。サウナの湿度はものすごく重要なのだ。日本のサウナはそんなわけで、乾燥しすぎていて、蒸気を楽しむ、湿気を楽しむことができない。
彼女が日本に来たとき、サウナにテレビが置いてあるのを見て失神しそうだった。
結論。
日本のサウナはサウナではない。少なくともフィンランドサウナではない。ジャパニーズサウナ・・・なんだよね。

お花畑を散歩し、木陰のブランコでお昼寝をし、お庭の隅に用意したミルクを飲みに来るハリネズミを眺めて楽しむ。
そんな夢のようなフィンランド滞在はあっという間に過ぎさった。
「ねぇ、ねぇ、小説書けたの?」
ぎくっ!!
今、書いている作品を仕上げて、その上で短編を一本・・・だったよね・・・?
ははは〜、今、書いてる作品すら仕上がってないよーん。
子供の頃、夏休み前に夏休みの抱負を一杯語ったのを思い出したわ・・・。
「宿題は一週間でやっちゃってぇ、午前中に何時間勉強して、プールとラジオ体操には毎日通って、本は何冊読んで〜」みたいな・・・・。
一度たりとて実行されたことはなかったっけ・・・。
あ〜あ、私って小学生の時から成長してないんだわ〜。

フィンランドには何度も来ているが、そのたびに新しい発見がある。
今回はSSを妄想しながらの旅、またまた今までにはない感慨深いものがある。
「ベルサイユのばら」をフィンランドで紹介したらどうなるだろうか?などと考えてみた。
ベルばらの人気の核はなんといってもオスカルというキャラクターにあると思っている。
もちろん、それだけではないが、もしベルばらにオスカルが登場しなければ、ここまでの人気を誇ることができただろうか、と考えれば、やはりオスカルが人気の核であることは否めない。
オスカル、女性でありがながら、軍隊という男の社会に男として身をおき、男以上に活躍し、かつ女性としても完璧な美を誇るスーパーヒロイン。
このキャラクターの人気は女性の地位が低い国の方がそれに反比例して高くなるのではなかろうか?
社会で男と肩を並べて活躍する、ということが稀な国の女性達の方がオスカル・フランソワというキャラクターに憧れを抱くのではないかと考えたのだ。
自分達にはない部分、できない部分に憧れるのでは、と思ったのだ。
フィンランド社会の男女同権は私の目には完璧に確立しているかに見える。
女性が総理大臣を勤め、国会議員のほぼ40パーセントが女性なのだそうだ。法律でも例えば産休は3年間が保障され、全ての女性が安心してそれを取ることができる。
日本のように法律上は保障されているが、現実は・・・などということはないのだ。
それによって、地位が左右されるなどということも固く禁じられているという。
もちろん、この産休は父親の方がとることも可能だ。妻が働き、夫が家事をする場合である。
Aの叔母夫婦を尋ねた時、年を取った叔父さんが料理の食事の後片付けを手伝っていたのは印象的だったが、それよりもそれを見てのAのことばに驚いた。
「驚いたわ。叔父さんが手伝うところなんて始めてみた。あなたの前だからね。」
そう言ったのだ。
つまり、特別な来客だから体裁を整えようとしているという意味なのだ。
これが日本だったら、たとえ普段ご主人が食事の後片付けを手伝っている家でも来客の時はしないのではなかろうか?
やはり夫に手伝わせる妻、家事をする夫、というのが体裁悪し、という感覚があるからだと思う。
男女平等という感性、それが常識であり、正しいと信じる社会全体の土壌は日本と比べれば大きな隔たりがあるように思える。
「やっぱりベルばらはここでは人気がでないのかしら・・?」
そう思う私にAの以外な写真とことばが・・・。
それはAの子どもの時の写真である。
オモチャのピストルを構えてポーズをとっている。
少し恥ずかしそうに彼女が説明した。
「子どもの頃流行ったテレビ番組なの。女なんだけど、刑事で活躍するヒロインに憧れて。」
おおおおおおおおお!!
いたのだ。フィンランドにもオスカル・フランソワが。
私の目には十分と思える男女平等もフィンランドの女性達に言わせればまだまだこれからなのだそうだ。そう考える彼女たちの間ではやはり男の中で活躍する女性ヒロインに憧れる少女時代が存在する。
これはいける!いけるぞ!!「ベルばら」はフィンランドでもブレイクできるかも〜。
早速、私はAにベルばらを読ませるところを想像してみた。

「・・・・・???なんでぇ?なんで男として育てられなきゃなんないの?婿養子もらえば?この父親ってヘン!」
「アンドレって最初と最後で人格変わってない?なんでオスカルとくっつくの?」
「私の理解できないところはぁ!etc.etc.・・・・・」
ああ・・・・、歯に絹着せぬ彼女の質問の嵐・・・が想像できる・・・。

確かにベルばらってオスカルを男として育てようとした時の両親の心情とか、ジェローデルや、アランの内面とか、深く描かれていない部分が多々ある。
しかし、だからこそ、魅力的なのかもしれない。
そんな謎の空白スポットにファン達の想像力が駆り立てられ、たくさんの人がSSを書く。
ベルばらの不完全さは丁度ミロのビーナスの腕のように、不完全さを持って作品の魅力を完全なものにしている。見るもの、読むものの想像力を永遠に駆立てつづけるのだ。
いつの日か、Aに、フィンランドに、紹介できたらいいな!と思う。
Mちゃんが日本語勉強してくれないかな・・・。そしたら「ふっふっふっ・・フィンランドに帰してほしければこのマンガを読め!」・・・・な〜んて。


Mちゃんまたね〜!
金髪のうちにチビオスカルの格好してね〜。
フィンランド式の抱き合う挨拶をして、私は成田へと飛び立とうとした・・・。
出国審査の列であと3人という時・・・、
「ママ、おしっこ〜」と息子が言ったのは言うまでもない。
列から離れ、戻ってきた時は列は4倍の長さになっていた。
「AY○○便、成田行きのお客様、最終呼び出しがかかっております。お急ぎ、搭乗口へおいで下さい。」の放送には本当にあせった・・・・。
なんとか間に合い、座席に座った時はほっとした。
長いチビ連れのフライトに耐え、日本に着いた時はやはりすごく嬉しかった。
「My dear Japan」
などとつぶやいてみる。
この国こそ、ベルサイユのばらを生み出した私のホームカントリーなのだ。

おしまい・・・です。ご退屈さまでした。




























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