2003 8/23

罪と罰 〜夢〜




お前に触れたくて、仕方ない俺の
甘やかで、激しい欲望が、冷たい白磁の肌を愛しむ。
震える指を、お前の素肌に滑らす夢を見させる。

一気に噴出す想いは、柔らかく、冷たい唇を捕らえ、
無骨な掌が、お前の滑らかな背中へと伸びる。


ふと、触れた違和感。
艶やかな肌に、異物感を感じる指先。

…瞬間、
時間が止まる。

鮮明に蘇る記憶。


いっときも、忘れる事の無い、
俺の深き罪の跡。

目の前で、崩れ、
蒼ざめ、意識を失った、お前の体。

流れ出る血液…。

息が止まるかと思った。
己の未熟さに、唇を噛む事しか出来なかった。あの時。

彼の助けが無ければ…
事態は、もっと取り返しのつかないものに為っていた筈。
彼でさえ、不振に思い駆けつけたのに。

配慮の足りない俺の不甲斐無さが、
女のお前に、深く、悲しい痛みを残してしまったのだ。

お前を護る為に、傍らに居る俺が、
護るべき力を持たない為に、起こった出来事に、
俺は、苦しくて、
押しつぶされそうで、
思わず、叫び声をあげた。


突然、
夢は現に変わり、
闇が、目の前に広がった。

ぼんやりとした視界が、徐々に形を持ち、
窓から射し込む、月の光の中、
俺の部屋の天井が姿を見せた。

既に、欲望の野獣は、影を潜め、
俺は喉元に、俺の罪を突きつけられる。

現実と夢が交差は、俺の魔と罪を確認させる。



想いが叶い、
苦しい愛が、報われ、
"お前が俺を愛してくれる。"
この、例えようも無い幸せを、抱き締める、今。
しかし、一つ叶えば、全てが欲しいと、目を覚まし、野獣が起きる、

…今、この時。



だが…

お前の傷が、俺の罪を、常に問うのだ。
果たして、俺はお前と愛し合っていても良いのか…と。
俺の罪は、お前の傷と同じ様に、一生消えやしないのに。

俺が、負わせたお前の傷跡が、
俺は、お前の側に居る資格が、無いのではないかと、
問いかけるのだ。


護衛する職務の重さを、
痛いほど知ったあの夜。
護衛すべき俺が、一緒にいながら、
負わせてしまった、取り返しの付かない痛み。


多勢に無勢、不可抗力は、言い訳でしかない。
お前の性格、職務を思えば、慎重に、目を配り、護る事が俺の職務の筈だった。

しかし、俺は、お前の剣の腕に、胡座を掻き、精進を怠った為に、
助ける事が出来なかった。

一つの怠りが、全てを奪い去る現実にお前は生きているのだ。

あの時、お前に助けて貰った俺の命。
お前の為、命を賭けようと誓いさえしたのに。
俺が変わりに仕出かしたものは、何なのだ。

全ては、俺の甘さ故、

ただ、愛しているだけでは、
如何にもならない事が、骨身にしみた、あの夜の現実。


お前の傷がもし、奇跡の様に、無くなったとしても、
其の罪は、けして消える事は無いのだ。

なのに、この身に、許されまじ罪を背負い、
お前への愛に溺れ、もはや、お前なしでは、生きられず、
この幸せを、手放す事は出来ない俺は、
…何なのだろう。


深き罪を伴う愛を抱え、何処へ行くというのだろうか。


オスカル…、
それでも俺は、深く頭を垂れるべき、罪の傷跡さえ愛しく想う。

この身に、罪と罰を一身に受け、
其の肩に、罪に、くちづけを落とす夢さえ見るのだ。

いつか、俺は、神に裁かれる。

今夜もまた、そう、肝に銘じ、
俺は、この夢がまた現実へと変わる旅を続けるのだ。

果てしない罪の旅路へと、
お前を引きずり込まない様に…と。






オスカルの背中に残る生涯消えない痕跡。
掛け替えのないものに負わせた痛み…
彼の心の中にも一生消えない傷が
癒えることなくあるのかもしれない…

己の罪を自覚しながら
愛しい… 触れたくなるほどに…

同じ傷に抱く想い、それぞれに…

真織さまがアンドレの心情を綴ってくださいました。
真織さま、ありがとうございました。
























inserted by FC2 system